古い本

私は比較的古いものを扱うことが多い職業だ。例えば、戦前に発売された本を手に取ることも多い。その時代の本は、もちろん「本」には変わりないのだけれど、確かに「その時代の形」をしているように見える。装丁や活字はもちろん、文章の気配もその時代を示す。

 

もちろん古い本にも、良い本/面白い本があれば、つまらない本もある。古ければいいってもんじゃない、というのは「素晴らしい老人」と「ダメな老人」がいるのと同じで、その辺に今と変わりはない。ただ、古いというのはそれだけである種の感慨を呼ぶものでもある。

 

「ものの価値」と一言でいえばそれで済む話でもある。「高い本」と「安い本」と分ければ全ては明快なのだが、ただ「古い」というだけでふと私の手は止まる。この、祖父と同じ年齢の本を真っ二つにして紙に戻し、次の本に変えてしまってよいものかどうか。

 

ほとんど全ての本は、読まれ、役に立たれるために印刷されて来る。時を経て、一顧だにされなくなっても、その志は変わるまい。

人が見向きもしないものに、少しだけ手間をかけてもう一度表に並べるのが古本屋の仕事ということもあって、本を捨てるのはやはり胸が痛む。