21世紀の古本屋

21世紀の古本屋。
といっても、他人のことなんか知らないし、考えても、この行き止まって寸も詰まった状態が、解決できる可能性なんて皆無なんですけどー、と思いながらの、21世紀。21世紀って、「もっと未来」な感じだと思っていたのですが、全然ですね。

振り返れば7年間、自分の屋号を付けて古本屋を続けていくことができました。これは、めでたい。ただ、その7年間の間、一度として「良く売れたなー」と感じることなく、ここまで参りました。売れることを知らないので、売れないことも知らないわけで、こんなもんだと体が信じ込んでいます。

「良い時があると、その時のことが忘れられずに、やがて身持ちを崩す」なんてことを申しますが、これは良いことがあった方々の言い分で、「良い時などなかった身」としては、羨望の限り。反射的に身を小さくしてしまうこの小心を、一度で良いからノビノビとさせたいと願っているのですが、さて。

7年間、一度も「売れる」ことなくとも続けられるのは、古本屋という商売の持つ不思議であります。確かにそれは私も不思議で、振り返って棚を見ればこの本全て売れ残りであります。もちろん売れ残りも少しは売れるのですが、逆を言えば「少し」しか売れません。売れ残りなのですから、当たり前。

今、売れる本と言えばなんでしょう。出たての新書、人気もののミステリー、時代小説の文庫や、おしゃれな雑誌。ちょっとグレードが上がると、ハイブロウな写真集や、現代作家の画集とか? 断言できます。そういうものは、はい、一冊もありません。

「今売れるものが全部無い」わけですから、そりゃ売れないに決まっている。お前の努力が足りない。そう言われれば、その通り。返す言葉もございません。まぁ、ただこの分だと一生「今売れるもの」というのはうちの店には届かないんだろうなと確信している次第です。なんせそういう努力をしないんで。

やる気もない、仕入れもない。それじゃあ何があるんだ、ということになるんですが、これはまぁ在庫はあります。この売れ残りを売って、細々と口に糊をしております。古本屋の売り上げは、年々落ちておりますが、そこはこのようにして対応してまいったわけです。

うちの在庫は始め1500冊でした。それでギリギリ食べられました。次の年、古本屋全体の売り上げが3割落ちました。うちの在庫を3000冊にしました。うちの売上が大体3割上がりました。次の年、古本屋全体の売り上げが3割落ちます。在庫を10000冊にします。売り上げは2.35倍になりました。

古本屋全体の売り上げは、最初1500だったものが、今は815くらいになっています。当店は、売れ残りの量を7倍くらいにしてそれを補ったわけですな。結果として、スタート時点1500だったウチの売り上げは、3倍以上にはなっています。ザッとの話なのですが、まぁこんな感じと思っていただければ。

ただ当店、ここ3年くらい在庫は10000冊あたりで打ち止めであります。本が増えれば置く場所も、管理する手間も増大する一方でして、人手不足も相まってどうしても限界が来るのです。売上減少の波を、在庫を増やすことで補っていたのですが、これが限界。

このまま古本屋全体の売り上げが下がり続ければ、潰れることは明白なわけで、困ったなぁと思っているわけです。これがどういうことかと言えば、21世紀の古本屋は、本が売れなくて困っているということですな。そんなことは、屋号を取った時から知っていたのですがね。

まぁ、在庫と倉庫が残っているので、これをしてどうにかせしめる。ということで、来年も再来年も取り組んでは行くのですが、これからどうなりましょうね。知識もない、やる気もない本屋が生き残って行くのは難しい時代なのだと思いますが。

まぁ、知識もやる気もないのに、それで行けた時代があったというのが、むしろすごいというか、微笑ましいというか、良い時代だったということなのでしょうな。まぁ全てが違いすぎて、比べる気にもならないのですが、それをもって「良い時代もあった」ということであるならば、むしろ追悼の念を捧げたい気持ちになります。

去年まで一日5万円売れていた、のがある日2万円しか売れなくなった。25万円の月給が、10万円しかもらえなくなるってことですからね。それで潰れない方がかえってスゴイというか、どんな生活してんだろってことですね。でも、そういう人が結構ごろごろといる世界です、この業界は。