食べられない。

異物混入の話をしよう。
お湯を入れてふやかす「やきそば」の中に、ゴキブリが入っている。鳥の唐揚げ的な食べ物の中に、鳥の頭部が揚がっている。確かに、「異物感」は半端ではない。(まぁ、後者は筋として間違っているんだろうか?)

私にとっての「異物混入」に関しては、一つエピソードがある。
私はタラコのスパゲティが好きで、若かりし日の私は母親の作ってくれたそれを食べていた。そこには、かなりの分量のサラダが付属するのが常で、私はそれを気に入っているドレッシングで食べていた。

タラコのスパゲティは、とても美味しい。ドレッシングをかけたサラダもおいしい。私はもりもりとそれを召し上がっていたのだが、タラコのスパゲティを口に入れ、それを飲み込み、次にサラダに目を移した時にそのことは起こった。ドレッシングと水の海の中に、1センチ程度のアオムシがいたのだ。

 

彼/彼女はぷかぷかと浮かんでいた。次の瞬間、私は全くそのサラダを食べることができなくなってしまった。

 

今まで動いていたフォークが止まる。正直言えば少し考えていた。
「今までおいしく食べてたじゃん。別にこの虫がいることで、このサラダに変化は全くないじゃん。ドレッシングも好きなやつだし、野菜は美味しいし、これをちょいとどかして、そのまま食べても何の影響も変化も無いよね」と。

そして、少しだけ食べようともしたのである。ただ。その後私のやったことは、作ってくれた母親に、
「すいません、サラダに虫がいたのでこれ以上食べるのが無理そうなんですが、残してもいいでしょうか」
と許可を取ることだった。

今まで美味しく食べていたサラダが、アオムシ一匹いたことでまずくなることは無い。あるとすれば、それは「気のせい」だ。
そして、アオムシが野菜を食べるのは当たり前であって、人間がタラコと小麦を食べるのと同じだ。そこにそれがいることは、さして意外なことではない。

ただ、そのアオムシと目があった瞬間から、「そのサラダ」を食べることが出来なくなってしまい、ちょっと挑戦したものの、それを無かったことにすることはできなかった。そして、次の日以降、相も変わらずサラダはおいしかったし、ドレッシングもおいしいままだった。

だから、「そのサラダが食べられない」のは私の心の問題だったことは間違いない。その後も、同じ野菜を私とアオムシは食べているだろうし、そのことはさして問題ではない。そしてその時母親は、「残しなさい」と言ってくれたのだった。
私にとっての、「異物混入」という事件はそういうことである。