選んで買う

古本屋の仕入れには二種類あって、「お客さんから直接分けていただく」方法と、「古書の市場に行ってそこで買う」という風になる。
一般的には前者以外の方法には馴染みがないだろうが、組合に加入している業者の場合は状況が少し違う。

私のことを例に挙げれば、お客さんから直接本を分けてもらうことはほとんど無い。「皆無」と書かない理由は、それでも季節に一回くらいはそういうことがあるからだが、まぁ仕入の99%は組合の市場を利用している、と書けば様子は分かっていただけるだろうか。

なぜいきなりこんな話をし始めたのかというと、さっきふと同業者の方が「その後、市場で本を買う方が楽しくなってしまってさー」と言っていたことを思い出したからだ。お客さんから本を分けてもらうことと、市場で本を買うこと。この二つが、そんなに違うのかと言えば確かに違う。

お客さんから本を分けてもらう場合は、基本的に「お客さんが持っている本を買い取る」ということになる。そこには、お客さんが持っている「本の筋(すじ)」、というものはあるが、「自分の筋」がそれと重なるかは別問題だ。(「筋」とは大雑把に「ジャンル」程度の把握をしていただければ)

おまけに、古本屋の仕入は、10仕入れて1売れれば大成功という世界である。売れる1はもちろんありがたい限りだが、売れない9は「わーい沢山ある」とはならずにむしろ重荷である。倉庫は圧迫され、床は軋む。そこで組合の市場の出番ということになる。

組合の市場は「交換会」と言って、名前のとおり「自分の使わない本を出して、必要な本を買う」という仕組みになっている。古本屋が100人いれば、その100人の「筋」は違う。本を見る「目」も異なる。目が変わればその本に対する評価も変わって(変わらないこともある)、商売が成立するというわけだ。

物差しが一つしかなければ「交換会」など成立しないが、まぁ古本屋はそれぞれ自分事大だから、物差しには事欠かないので、今のところはなんとか「市場というストーリー」は成立している。

ならば、なぜ先述の本屋さんが「市場で本を買う方が楽しくなってしまったのか」と言えば、市場であれば「自分の好きな」本を選んで買えるからだ。お客さんから出されて、目の前に積んである本に「趣味が合いませんね」とは言えない。市場であれば、無視を決め込めばそれで済む。

お客さんから分けてもらった本に、値段を付けて売る。これが古本屋の基本なわけだが、売る本が必ずしも自分の趣味に合うわけではないということは、分かっていただけると思う。特に新しく古本屋になった、というような人は大体本が好きで本屋になったようなことが多い。

市場で買うならば、選んで買うことができる。
写真が好きなら、写真集と関連本だけを選んで買っていればいいし、それを繰り返せばまたたくまに専門店である。それが出来るのかと言えば、まだやろうと思えば出来る。自分の目で選んだ本。自分そのものに近づけていくとでも言うのか。

ただ買った本が「売れるか」と言えば、それが最大の問題で、まぁそのなんだ、問題なんだな。