過去問

先日、参考書で眼にした文章を今でも覚えいる、という話を見かけて「あぁ」と思った。確かに参考書は古今東西の名言の宝庫であろう。その全体は見通せなくとも、偉大なものであるならばそのフレーズ一つで、人を「参った」と言わせることが出来る。参考書に乗っていればなおさら、いや三割引か。

それを読んで思い出したことが一つあって、高校受験時代、現代文の問題上で良く小説を読んだ。あれは、分量はどれくらいあるんだろう。原稿用紙にしたら、5枚くらいのものだろうか。当たり前だが、普段より集中して読むことになるので、印象に残りがちだった。ただし、今はほとんど忘れている。

そんな中で、「これはすごいな」と思ったのが「海と毒薬」でこれは問題文に採用されていたテキストがあまりにも面白かったので、次の日文庫を買って全部読んだ。そういう本はこれが唯一だったと記憶している。

明け方の建物の屋上で、二人の男が暗がりの中に立っている。実験を終えた二人は、自分たちの「罪」について思うところを語る。片方の「悪」なのか「偽悪的」なのか分からない男の言い分が壮絶で、それを受けたモノローグもドラマチックなものだったと思う。そして煙草の火、足下に広がる海。

まぁ、次の日一冊読み通した感想は、その問題文を読んだ時に感じたものより大したことは無かったのだけれど、それでもとても面白く。縁なく著作を追いかけることは無かったのだけれど(これと「沈黙」くらいか)、今でも売り物の棚に文庫が少しだけ置いてあるのはこの記憶があるからだ。