「街の古本屋入門」(志多三郎 KG情報出版)を読んだ

「街の古本屋入門」(志多三郎 KG情報出版)
「古本屋の書いた古本屋の本」に対しては、やはりどうしてもなんというか、色々と思ったり言いたくなったりすることが多く、なかなか素直に「良い」とは言えないのだけれど、この本は良かった。おぉ、驚いたかね。

この本の一番素敵な点は、この古本屋さんが体験的に知り得た「本当のこと」が書いてあって、大上段にも構えないし、自分を大きく見せようと見栄も張らずに、とつとつと「自分の仕事」について書いている。そんな書き方で、書いた本人はつらくなかったのかね、と心配になるほど。

まぁ、そんなことだから、内容的にはさして面白いこともなく、一般の人が興味深く読める内容でも無いと私は思うのだけれど、古本屋が苦笑いをしながら頁をめくる分には本当に申し分ない内容だと思う。もし誰かがこの本を手に取って、頁をめくることがあるのならば言いたい。「これが古本屋ですよ」と。

全部で267頁、ことごとく普段私が言っているようなことが書いてあるので、内容的には全くその通りで問題のないものでしょう(冗談ですよ?)。というわけで、「古本本」ではなくいわゆる「古本屋本」はこれが最終決定版なので、他の本は読む必要はありません。いやぁ、良かったね。こういう本があって。

初出は1986年の光文社文庫で、私が読んだのは1997年発行の復刻版となります。30年前の本なので、インターネットの抬頭はまだなく、ブックオフの影もまだ見えない頃でしょうか。ということは、80年代の後半から現代に至って、今まさに「滅びゆく古本屋」の姿がこの本ということになりますね。

もうこの頃から、「売れない売れない」と書いてあって、「俺の仕事はもう30年も売れてないのか」と思うわけだけれど、それと同時に古本屋という仕事とその営みは、さして変わっていないのだなとも思えました。何かこの人も俺も、文句ばっかり言ってるよな、みたいなことも含めて。

いや、もちろん大きく変わっているに決まっているのだけれど。ただ、底の方に流れているものがあり、そこは変わっていない気がします。
「ハイ。私もそのことを知っています」と、大先輩の背中にそっと呟いた気になった読書でした。