谷崎潤一郎「陰翳礼讃」

谷崎潤一郎、の「陰翳礼讃」(いんえいらいさん)を読んだ。全集を定本に、6本のエッセイをまとめた本なのだが、とても面白く読んだ。中でも、やはり出色は表題作にもなっている「陰翳礼讃」で、ただひたすら「陰」について60頁も書くのは、さぞかし骨が折れたろうと思う。ご苦労様。

日本文学の世界に名を成す谷崎潤一郎なのだけれども、不勉強なことに私は全然小説の方を読んだことがない。(ミステリーのアンソロジーで短編に触れたくらいか) ただ、この本の作者である谷崎潤一郎は、「大谷崎」というよりは、愚痴っぽいおじさんという体で、とても付き合い易い。

読んでいるさいに一つ気になったことがあって、この「陰翳礼讃」が発表されたのは、昭和8年のことだと末尾ある。この中公文庫版は、現代文で書かれていてとても読みやすく、当時の文章がこんなに読みやすいのは少々怪訝だった。奥付を見れば「改版」とあるから、現代文にリライトされているのだろうか。

そういうことは結構あって、例えば岩波文庫や角川文庫はある時期から「改版」と称して「今風」の文章になっている。その理由ということでもないが、たまに出てくる「頭注」の部分、こちらは引用が多いのだが、その引用の部分は全く読めない。当時の人なら読めたのだろうかね。

もし、古い版がすぐに読めるのならば比べてみたいと思ったのだが、残念ながら打つ手がなかった。まぁ、こういったことは宿題として取っておく。
なんにせよ、良い体験だった。私の中の谷崎は、愚痴っぽく狭量で、偏っていて、文章に愛嬌と芸のあるおじさん、ということに定まった。またいつか会おう。