思う

古本屋になったのはおおよそ15年くらい前の話となる。
部屋と本しか無かったので、インターネットで本を売ることにした。最初の月の売上は15万円だった。よく売れるもんだなと思った。
なんの本が売れたのか、とか、いくらの本が売れたのか、ということは一つも覚えていない。どういう人が注文をくれたのか、ということも覚えていない。お勤めしていた古本屋で、同じことをやっていた、ということもあるかもしれないが、ようするに興味がなかったのだと思う。
ただ、当時も今もずっと思っていることがあって、それは15年たってお店を開けてからも変わらず思っているのだが、それは「ある日突然一冊も本が売れない日が来るかもしれない」という確信に近い思いだ。
理屈もある。読書人口は減り、おまけに本は大量生産物の上に生活必需品でもない。内容はどれを手にとっても同じだから、わざわざ「私」から買う必要もない。だから、私がこの仕事で15年もの間いくばくかの稼ぎがあるというのは、本というもののもつ底力と、まごうことなきただの偶然である。

「自粛の春」が終わって「コロナの夏」が開ける。
私は店を開けたとて、一人もお客さんが来ないのではないかと思っている。何人か人が店に来たとしても、一冊の均一も売れないのではないかと思っている。もう「古本屋」は人に必要とされていないかもしれないと思っているし、「本」はインターネットで買えばよいのではないかと、お客さんたちは考えているかもしれないと思っている。そうだとしても、なんの驚きもないし、15年も前から思っていた未来にようやくたどり着いたのだと納得するだろう。
「店を再開したら、お客さん来るかな?」と何人かの同業者に尋ねた。そうするとみな口を揃えたかのように「大丈夫なんじゃない?」という。不思議と確信しているかのような口ぶりである。
頼もしいな、と思う一方で、この人たちバカなのかな、とも思う。