欠片をつなぐ

例えば一つの本棚が育つのに、何年の時間がかかるのだろう。
読んだ本が一冊一冊くわえられて行き、意に沿わなくなったものははずされ、それでもまだ見ぬ完成を目指して一歩づつ進んでいく。
「古本屋が好きな本棚」は、誤解を恐れずに言えばそういう棚だ。

もちろん、そんな棚を古本屋に明け渡さなければならないからには、なんらかの悲劇的がそこにあったりもするのだろうけれど。古本屋は、その葬儀をつかさどる司祭でもある。古本屋にとって、それにたずさわることが出来るというのは、もちろん誉(ほまれ)だ。

見ようによっては、もちろんそれは死体に群がるハイエナのようにも見える。それは単純に事実で、ごまかしようなどないし、隠す必要もない。聖と俗はすぐ隣同士にある。おまけに、古本屋はその蔵書をそのまま助けることは出来ない。売ってお金に替え、次の祭壇へと向かう。

ただ、その本たちがやってきた経緯を覚えている内は、前の持ち主が抱えていた熱が少しでも伝わるといいなとは思っている。本屋には、その熱が「少しだけ」分かるから。その本が生まれてきた場所に、行ったことがあるから。
もちろん情熱は、売り物にはならないのだけれど。