一冊の本

私は古本屋だが、知っている。古本屋は本など読まない。
本など顔を見たくない、という気持ちももちろんあるが、そんな暇などないというのが実際のところだ。だから「本を読む古本屋」というのは、よほどちゃんとした本屋か、そうでなければ、よほど暇なのだろう。

 

「古本屋は本など読まない」という、お客様には知られてはならないような事実を世に知らしめてしまった責任を感じるのでフォローしておくと、古本屋は本は読まないが、その本については結構詳しい。特に、背表紙と奥付と場合によっては目次については相当な知識を持っている。

 

そして、その本が売れるかどうかについても、わりと詳しい。これは、古本屋が本をめくってみる場合、まず背表紙を見て、場合によっては目次に目を通し、奥付を確認してから、最後に値段を付けて売ってみて、やはり売れない、という作業を繰り返すことに起因する。売れると驚く。

 

「一つの古本屋」というのは、多くの場合は自分の持っている本のインデックスみたいなもので、それは雑多な本の名前が並べられた、ほとんど一冊の本だ。古本屋自身が一冊の本であることが、良いか悪いかは分からないのだが、まぁとにかく私は一冊の本だ。仕方なくも。