店の中に、花びらが

換気のために、店の扉を開け放しにしている。
6坪ほどの狭い狭い店なのだが、帳場から見て左の列と右の列が棚によって分けられており、その二列とも端にガラスの引き戸がついている。
ようするに、横開きのガラス戸が二つあって、その二つとも出入りが可能なつくりとなっている。
二つとも開け放しにしていておくと、少し寒い時もあるのだけれど、まぁ我慢できるというくらいの感じだ。

店の目の前の通りは右上がりの坂道になっていて、比較的まっすぐだ。
おそらく、そこを風が通り抜けていくのだと思う。どこかで散った桜の花びらがそれに乗って通り過ぎようとするのだが、一部が脱落して店先に落ちる。
そしてさらにその一部が、なんとなく店の中に入ってきて、床の上を飾ったりもする。
右の列と左の列を比べると、なぜか右の列の方が花びらが多い。なにかメカニズムが働いているのだろうが、私には説明することができない。
風が坂を下ってくるからだろうか。まぁ、想像に想像を重ねても正解にはたどりつかないのだけれど。

閉店直前になって、一向に伸びない客足に業を煮やして、ガラス戸を閉めてしまった。ついでに、床を箒で掃く。
桜の花びらは、思っていたよりずっと多く店内に侵入していて、チリトリの上で山となっていた。
お客さんの数より、花びらの方が多いんじゃしょうがねぇなぁ、と思いながら店じまいの支度を始める。
レジの計算を先にやってみたり、未練がましくちょっとだけお客さんを待ってみたのだが、こういう時は来ないものだ。
諦めて、外に出ている均一の台を中にしまおうと動かすと、台の下からたくさん桜の花びらが現れた。
そいつらは、「あ、見つかっちった」みたいな顔をしていて、なんだか腹がたったので、放っておくことにした。
明日までそこにいろ。